母平均の区間推定の考え方と意味、例題について



- 1. 母平均の区間推定の考え方
- 1.1. 信頼区間とは
- 2. 母分散が既知の場合
- 2.1. 前提条件
- 2.2. 標本平均の分布
- 2.3. 標準化
- 2.4. 信頼区間の導出
- 2.5. 具体例:95%信頼区間
- 3. 母分散が未知で標本サイズが小さい場合
- 3.1. 前提条件
- 3.2. 標本平均と不偏分散
- 3.3. \(t\) 分布による標準化変数
- 3.4. 信頼区間の導出
- 4. 母分散が未知で標本サイズが大きい場合
- 4.1. 前提条件
- 4.2. 標本平均の近似
- 4.3. 標準化
- 4.4. 信頼区間の導出
- 4.5. 具体例:95%信頼区間
- 5. 例題
- 5.1. 例題 1:母分散が既知の場合
- 5.1.1. 条件の整理
- 5.1.2. 信頼区間の計算
- 5.1.3. 結論
- 5.2. 例題 2:母分散が未知で標本サイズが小さい場合
- 5.2.1. 条件の整理
- 5.2.2. 信頼区間の計算
- 5.2.3. 結論
- 5.3. 例題 3:母分散が未知で標本サイズが大きい場合
- 5.3.1. 条件の整理
- 5.3.2. 信頼区間の計算
- 5.3.3. 結論
- 6. まとめ
1. 母平均の区間推定の考え方
母平均の区間推定では、「母集団の平均 \(\mu\)」がどの範囲にあるかを、ある確率(信頼係数)で推定することを目的とします。以下では、母分散が「既知」か「未知」か、そして標本サイズが「大きい」か「小さい」かによって手法が異なるため、3つの場合に分けてまとめます。
1.1. 信頼区間とは
信頼区間とはある母集団の未知のパラメータ(例えば母平均 $\mu$)が、一定の確率(信頼係数)で含まれると推定される範囲のことです。
例えば、「95%信頼区間」が $[a, b]$なら、「母平均 $\mu$ は 95%の確率でこの範囲にある」と考えます。
2. 母分散が既知の場合


2.1. 前提条件
- 母集団が正規分布 \(\mathcal{N}(\mu, \sigma^2)\) に従う
- 母分散 \(\sigma^2\) はあらかじめわかっている(既知)
- 標本サイズは \(n\)
2.2. 標本平均の分布
母集団が正規分布に従い、母分散も既知の場合、標本平均 \(\bar{X}\) は \[ \bar{X} \sim \mathcal{N}\!\bigl(\mu, \tfrac{\sigma^2}{n}\bigr) \] と分布します。
2.3. 標準化
母平均 \(\mu\) を推定するためには、まず標本平均を以下のように標準化します。
\[ Z = \frac{\bar{X} - \mu}{\sigma / \sqrt{n}} \]
のとき、\(Z\) は平均0、分散1の標準正規分布 \( \mathcal{N}(0,1) \) に従います。
2.4. 信頼区間の導出
有意水準$\alpha$の下で、標準正規分布表、または標準正規分布の特性から、確率が \(1-\alpha\) となる区間は \[ P\!\bigl(-z_{\alpha/2} \leq Z \leq z_{\alpha/2}\bigr) = 1 - \alpha \] と表されます。これを \(\mu\) について解くと、次の不等式が得られます。
\[ \bar{X} - z_{\alpha/2} \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \;\;\leq\;\; \mu \;\;\leq\;\; \bar{X} + z_{\alpha/2} \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \]
これによって、母平均 \(\mu\) の信頼区間が \[ \Bigl(\,\bar{X} - z_{\alpha/2}\tfrac{\sigma}{\sqrt{n}},\, \bar{X} + z_{\alpha/2}\tfrac{\sigma}{\sqrt{n}}\Bigr) \] と求められます。
2.5. 具体例:95%信頼区間
たとえば、信頼係数を95%(\(\alpha=0.05\))とする場合、標準正規分布表から \(z_{0.025} \approx 1.96\) がわかります。
よって、95%信頼区間は \[ \bar{X} \;\pm\; 1.96 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \] という形になります。
3. 母分散が未知で標本サイズが小さい場合
3.1. 前提条件
- 母集団は正規分布 \(\mathcal{N}(\mu, \sigma^2)\) に従う
- 母分散 \(\sigma^2\) は未知
- 標本サイズ \(n\) は小さい(一般的に \(n<30\) 程度)
標本サイズが小さいときは、母集団が正規分布に従うことを仮定しても、母分散を推定しなければなりません。そうした場合、\(t\) 分布を用いた区間推定を行います。
3.2. 標本平均と不偏分散
まず、標本平均 \(\bar{X}\) と不偏分散 \(U^2\) を求めます。不偏分散 は次式で定義されます。 \[ U^2 = \frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n}(X_i - \bar{X})^2. \]
これは母分散 \(\sigma^2\) の不偏推定量であり、母分散がわからないときにはこれを用います。
3.3. \(t\) 分布による標準化変数
母分散の代わりに不偏分散から求めた標準偏差 \(U\) を使って、標本平均を標準化します。
\[ T = \frac{\bar{X} - \mu}{U/\sqrt{n}} \]
このとき、\(T\) は自由度 \(n-1\) の \(t\) 分布に従います。
3.4. 信頼区間の導出
\(t\) 分布を用いた場合も、標準正規分布と同様に \[ P\!\bigl(-t_{\alpha/2,\,n-1} \leq T \leq t_{\alpha/2,\,n-1}\bigr) = 1 - \alpha \] が成り立ちます。
これを \(\mu\) について解くと、 \[ \bar{X} - t_{\alpha/2, n-1}\frac{U}{\sqrt{n}} \;\;\leq\;\; \mu \;\;\leq\;\; \bar{X} + t_{\alpha/2, n-1}\frac{U}{\sqrt{n}} \] という区間が得られます。
よって母平均 \(\mu\) の信頼区間は \[ \Bigl(\,\bar{X} - t_{\alpha/2, n-1}\tfrac{U}{\sqrt{n}},\, \bar{X} + t_{\alpha/2, n-1}\tfrac{U}{\sqrt{n}}\Bigr) \] となります。
4. 母分散が未知で標本サイズが大きい場合


4.1. 前提条件
- 母集団の分布は正規分布でなくてもかまわない(中心極限定理が適用できる)
- 母分散 \(\sigma^2\) は未知であるが、標本不偏分散 \(U^2\) から推定を行う
- 標本サイズ \(n\) は大きい
標本サイズが十分大きい場合、中心極限定理によって標本平均の分布を正規分布で近似できます。母分散は不明ですが、不偏分散 \(U^2\) を利用して区間推定を行います。
4.2. 標本平均の近似
中心極限定理によると、標本サイズが大きいとき標本平均 \(\bar{X}\) は近似的に \[ \bar{X} \approx \mathcal{N}\!\bigl(\mu, \tfrac{\sigma^2}{n}\bigr) \] とみなすことができます。
4.3. 標準化
母分散が未知なので、不偏分散 \(U^2\) を使って標本平均を標準化します。
\[ Z = \frac{\bar{X} - \mu}{\,U/\sqrt{n}\,} \]
標本サイズが大きいとき、この \(Z\) は標準正規分布に従うと近似できます。
4.4. 信頼区間の導出
標準正規分布に従うと近似した場合、確率 \(1-\alpha\) で \[ P\!\bigl(-z_{\alpha/2} \leq Z \leq z_{\alpha/2}\bigr) = 1 - \alpha \] が成り立ちます。これを \(\mu\) について解くと、 \[ \bar{X} - z_{\alpha/2}\frac{U}{\sqrt{n}} \;\;\leq\;\; \mu \;\;\leq\;\; \bar{X} + z_{\alpha/2}\frac{U}{\sqrt{n}} \] となり、母平均 \(\mu\) の信頼区間が \[ \Bigl(\,\bar{X} - z_{\alpha/2}\tfrac{U}{\sqrt{n}},\; \bar{X} + z_{\alpha/2}\tfrac{U}{\sqrt{n}}\Bigr) \] で与えられます。
4.5. 具体例:95%信頼区間
\(\alpha = 0.05\) すなわち信頼係数が95%のとき、標準正規分布の臨界値は \(z_{0.025} \approx 1.96\) となるので、 \[ \bar{X} \;\pm\; 1.96 \frac{U}{\sqrt{n}} \] が95%信頼区間の目安となります。
5. 例題
5.1. 例題 1:母分散が既知の場合
ある製品の耐久時間(単位:時間)は、正規分布 \(\mathcal{N}(\mu, \sigma^2)\) に従うとします。過去のデータから、母標準偏差が \(\sigma = 10\) 時間であることが分かっています。この製品から 25個 の標本を取り、平均耐久時間を計測したところ、\(\bar{X} = 200\) 時間でした。
このとき、母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 を求めなさい。
5.1.1. 条件の整理
- 母分散が 既知:\(\sigma^2 = 10^2 = 100\)
- 標本サイズ:\(n = 25\)
- 標本平均:\(\bar{X} = 200\)
- 信頼係数:\(95\%\)(\(\alpha = 0.05\))
- 標準正規分布の 上側 2.5% 点:\(z_{0.025} \approx 1.96\)
5.1.2. 信頼区間の計算
母分散が既知の場合の信頼区間の式は \[ \bar{X} \pm z_{\alpha/2} \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \]
ここに数値を代入すると、 \[ 200 \pm 1.96 \times \frac{10}{\sqrt{25}} \]
\[ 200 \pm 1.96 \times 2 \]
\[ 200 \pm 3.92 \]
\[ (196.08, 203.92) \]
5.1.3. 結論
母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 は \((196.08, 203.92)\) です。
5.2. 例題 2:母分散が未知で標本サイズが小さい場合
ある新製品のバッテリー寿命(単位:時間)を調査するため、10個 の標本を取り、平均寿命 \(\bar{X} = 50\) 時間、標本の不偏分散 \(U^2 = 25\) 時間を得ました。
このとき、母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 を求めなさい。
5.2.1. 条件の整理
- 母分散 未知
- 標本サイズ:\(n = 10\)(小標本)
- 標本平均:\(\bar{X} = 50\)
- 不偏分散:\(U^2 = 25\)
- 信頼係数 95%(\(\alpha = 0.05\))
- 自由度 \(n-1 = 9\) の \(t_{0.025, 9}\) を調べる
- \(t_{0.025, 9} \approx 2.262\)(t分布表より)
5.2.2. 信頼区間の計算
母分散が未知で小標本の場合、信頼区間の式は \[ \bar{X} \pm t_{\alpha/2, n-1} \frac{U}{\sqrt{n}} \]
これに数値を代入すると、
\[ \begin{align*} 50 \pm 2.262 \times \frac{5}{\sqrt{10}} &= 50 \pm 2.262 \times 1.581 \\ &= 50 \pm 3.58 \\ &= (46.42, 53.58) \end{align*} \]
5.2.3. 結論
母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 は \((46.42, 53.58)\) です。
5.3. 例題 3:母分散が未知で標本サイズが大きい場合
ある工場の生産ラインの製品重量(単位:kg)を調査するため、50個 の標本を測定したところ、標本平均 \(\bar{X} = 500\) kg、標本の不偏分散 \(U^2 = 20^2\) kg でした。
このとき、母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 を求めなさい。
5.3.1. 条件の整理
- 母分散 未知
- 標本サイズ 大きい(\(n = 50\))
- 標本平均:\(\bar{X} = 500\)
- 不偏分散:\(U^2 = 20^2\)
- 信頼係数 95%(\(\alpha = 0.05\))
- 標本サイズが 大きい ので、標準正規分布を使用し \(z_{0.025} \approx 1.96\)
5.3.2. 信頼区間の計算
母分散が未知で標本サイズが大きい場合の信頼区間は \[ \bar{X} \pm z_{\alpha/2} \frac{U}{\sqrt{n}} \]
数値を代入すると、
\[ \begin{align*} 500 \pm 1.96 \times \frac{20}{\sqrt{50}} &= 500 \pm 1.96 \times 2.828 \\ &= 500 \pm 5.54 \\ &= (494.46, 505.54) \end{align*} \]
5.3.3. 結論
母平均 \(\mu\) の 95% 信頼区間 は \((494.46, 505.54)\) です。
6. まとめ
以上を整理すると、母平均の区間推定では、次のように母分散の既知・未知と標本サイズの大小によって手法が変わります。
条件 | 使用する分布 | 標準化変数 | 信頼区間 |
---|---|---|---|
母分散が既知 | \(\mathcal{N}(\mu, \sigma^2)\) | \(Z = \frac{\bar{X} - \mu}{\sigma / \sqrt{n}}\) | \(\bar{X} \pm z_{\alpha/2} \tfrac{\sigma}{\sqrt{n}}\) |
母分散が未知・標本サイズが小さい | 自由度 \(n-1\) の \(t\) 分布 | \(T = \frac{\bar{X} - \mu}{U / \sqrt{n}}\) | \(\bar{X} \pm t_{\alpha/2,\,n-1} \tfrac{U}{\sqrt{n}}\) |
母分散が未知・標本サイズが大きい | 中心極限定理で近似的に正規分布とみなせる | \(Z = \frac{\bar{X} - \mu}{U / \sqrt{n}}\) | \(\bar{X} \pm z_{\alpha/2} \tfrac{U}{\sqrt{n}}\) |