【絶対値・複素数・ベクトル】三角不等式の証明と例題について
1. 三角不等式とは
三角不等式は、数学において絶対値、複素数、ベクトルの間で成り立つ不等式で、幾何的には三角形の辺の長さに関する性質を一般化したものです。それぞれのケースについて説明します。
1.1. 絶対値における三角不等式
\[ |a + b| \leq |a| + |b| \]
1.2. 複素数における三角不等式
\[ |z_1 + z_2| \leq |z_1| + |z_2| \]
1.3. ベクトルにおける三角不等式
\[ \|\mathbf{a} + \mathbf{b}\|\leq \|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\| \]
2. 証明
2.1. 絶対値における三角不等式
\[ |a + b| \leq |a| + |b| \]
$$|a + b|^2 -(|a| + |b|)^2$$
$$=a^2+2ab+b^2-(a^2+2|a||b|+b^2)$$
$$=2(ab-|ab|)$$
ここで、$|ab|\geq ab$より、$2(ab-|ab|)\leq 0$となるため、
$$|a + b|^2 -(|a| + |b|)^2 \leq 0$$
$$ \therefore |a + b| ^2\leq (|a| + |b|)^2$$
ここで、$|a + b|\geq 0, |a| + |b|\geq 0$より、不等式が得られます。
\[ |a + b| \leq |a| + |b| \]
2.2. 複素数における三角不等式の証明
\[ |z_1 + z_2| \leq |z_1| + |z_2| \]
複素数 \(z = x + iy\) の絶対値は次のように定義されます。 \[ |z| = \sqrt{x^2 + y^2} \]
複素数 \(z_1\) と \(z_2\) をそれぞれ \(z_1 = x_1 + iy_1\) と \(z_2 = x_2 + iy_2\) とします。
左辺の複素数の和の絶対値の2乗を考えます。
\[ |z_1 + z_2|^2 = |(x_1 + x_2) + i(y_1 + y_2)|^2 \]
\[=(x_1 + x_2)^2 + (y_1 + y_2)^2 \]
右辺の$|z_1| + |z_2| $について考えると、
$$(|z_1| + |z_2|)^2=z_1^2+2|z_1||z_2|+z_2^2$$
$$=x_1^2 + x_2^2+y_1^2+y_2^2+2\sqrt{x_1^2 + x_2^2}\sqrt{y_1^2 +y_2^2}$$
$|z_1 + z_2|^2-(|z_1| + |z_2|)^2$を計算すると、
$$(|z_1| + |z_2|)^2-|z_1 + z_2|^2$$
$$=\sqrt{(x_1^2 + x_2^2)(y_1^2 +y_2^2)}-2x_1x_2-2y_1y_2$$
コーシー=シュワルツの不等式により、次の不等式が得られます。
\[ x_1x_2+y_1y_2 \leq \sqrt{(x_1^2 + x_2^2)(y_1^2 +y_2^2)}\]
$$\therefore \sqrt{(x_1^2 + x_2^2)(y_1^2 +y_2^2)}-2x_1x_2-2y_1y_2 \geq 0$$
したがって、 \[ |z_1 + z_2|^2 \leq (|z_1| + |z_2|)^2 \]
$|z_1 + z_2|\geq 0,|z_1| + |z_2|\geq 0$より、 \[ |z_1 + z_2| \leq |z_1| + |z_2| \]
2.3. ベクトルにおける三角不等式
\[ \|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| \leq \|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\| \]
\(\mathbf{a} = (a_1, a_2, \dots, a_n)\) 及び \(\mathbf{b} = (b_1, b_2, \dots, b_n)\) とします。
$(\|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\|)^2-\|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| ^2$を計算します。
$$(\|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\|)^2-\|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| ^2$$
$$=2(\|\mathbf{a}\|\|\mathbf{b}\|-\mathbf{a}\cdot\mathbf{b})$$
ここで、\(\mathbf{a}\) と \(\mathbf{b}\) の内積は以下のように表されます。
\[
\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = \sum_{i=1}^n a_i b_i
\]
次に、ベクトルのノルムは以下のように成分で表されます。
\[ \|\mathbf{a}\| = \sqrt{\sum_{i=1}^n a_i^2} \]
\[ \|\mathbf{b}\| = \sqrt{\sum_{i=1}^n b_i^2} \]
したがって、与えられた式は次のように表せます
\[
2\left(\|\mathbf{a}\|\|\mathbf{b}\| - \mathbf{a}\cdot\mathbf{b}\right) = 2\left(\sqrt{\sum_{i=1}^n a_i^2} \cdot \sqrt{\sum_{i=1}^n b_i^2} - \sum_{i=1}^n a_i b_i \right)
\]
コーシー=シュワルツの不等式により、次の関係が成り立ちます。
\[ \sqrt{\left( \sum_{i=1}^{n} a_i^2 \right) \left( \sum_{i=1}^{n} b_i^2 \right)} \geq \sum_{i=1}^{n} a_i b_i \]
\[ \sqrt{\left( \sum_{i=1}^{n} a_i^2 \right) \left( \sum_{i=1}^{n} b_i^2 \right)} -\sum_{i=1}^{n} a_i b_i \geq 0 \]
したがって、
$$(\|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\|)^2-\|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| ^2 \geq 0$$
$$\therefore (\|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\|)^2 \geq \|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| ^2$$
$\|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\|\geq 0 , \|\mathbf{a} + \mathbf{b}\|\geq 0$より、
\[ \|\mathbf{a} + \mathbf{b}\| \leq \|\mathbf{a}\| + \|\mathbf{b}\| \]
3. 三角不等式の例題
3.1. 例題1(実数における三角不等式)
- \(|x + y| \geq |x| - |y|\)
- \(|x| + |y| + |z| \geq |x + y + z|\)
1.三角不等式$ |x + y| \leq |x| + |y|$より $x$を$x+y$、$y$を$-yに置き替えると
\[ |x + y -y| \leq |x+y| + |-y| \]
\[ |x| \leq |x+y| + |y| \]
\[\therefore |x + y| \geq |x| - |y| \]
2.まず、\(x + y\)に対して三角不等式 \( |x + y| \leq |x| + |y| \)が成り立つ。
$x$を$x+y$、$y$を$z$に置き換えると、\[ |(x + y) + z| \leq |x + y| + |z| \]
$|x + y| + |z|$に着目すると、\( |x + y| \leq |x| + |y| \)が成り立つので、 \[|x + y| + |z|\leq |x| + |y| + |z| \]
したがって、次が成り立ちます。 \[ |x| + |y| + |z| \geq |x + y + z| \]
3.2. 例題2(n個の三角不等式)
\[ |a_1 + a_2 + \cdots + a_n| \leq |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_n| \]
$f_n= |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_n|- |a_1 + a_2 + \cdots + a_n|$と置く。
\(n = 1\) の場合、
$$f_1=|a_1| -|a_1| =0\geq 0$$
となる。
\(n=k\) に対して、
$$f_k\geq0$$
$$ |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_k|- |a_1 + a_2 + \cdots + a_k|\geq 0$$
が成り立つと仮定する。
\(n = k+1\) の場合を考えます。
$$f_{k+1}=|a_1| + |a_2| + \cdots + |a_k|+|a_{k+1}|- |a_1 + a_2 + \cdots +a_k+ a_{k+1}|$$
$$=|a_1| + |a_2| + \cdots + |a_k|+|a_{k+1}|-|(a_1 + a_2 + \cdots + a_k) + a_{k+1}|$$
$$\geq |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_k|+|a_{k+1}| - (|a_1 + a_2 + \cdots + a_k| + |a_{k+1}|) $$
$$= |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_k| -|a_1 + a_2 + \cdots + a_k|$$
$$=f_k\geq 0$$
$n=k+1$のときも、$f_{k+1}\geq0$が成り立つ。
したがって、数学的帰納法により、任意の自然数 \(n\) に対して$f_n\geq 0$が成り立つことが示されました。
$f_n\geq 0$より、
$$|a_1| + |a_2| + \cdots + |a_n|- |a_1 + a_2 + \cdots + a_n| \geq 0$$
$$ |a_1 + a_2 + \cdots + a_n| \leq |a_1| + |a_2| + \cdots + |a_n|$$
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